冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
さすがは敏腕副社長と言われるだけのことはある。仕事が早い。

チーフ以外の社員に話を聞いたということは、チーフの二股不倫の件も把握したということだろう。
 
宗一郎がハンドルに手を置いて咎めるような目で日奈子を見ている。

新任のチーフにまつわる問題をなぜ黙っていたのだとその目が言っている。
 
日奈子は気まずい思いで口を開いた。

「私はチーフの個人的な問題は噂でしか知りませんでした……。もちろん連勤の件は正式なルートでお伝えしようと思っていましたけど」
 
言い訳をすると、彼は一応納得して車を発進させた。

車のライトに浮かぶ綺麗な横顔に日奈子は呼びかける。

「副社長」
 
宗一郎が眉を寄せて、不機嫌に口を開いた。

「ふたりの時は"副社長"も敬語もなしだ」
「……チーフはどうなるの?」

「しばらく謹慎させる。連勤指示だけでも重大な違反行為だからな。正式な調査が終わったら、処分を下す」
 
その言葉を聞いて日奈子はホッと息を吐いた。
きっかけとなった男性スタッフや証言をしたマネージャーたちが、チーフに報復されるという心配はなさそうだ。

「よかった……」

「それよりも、出てくるのが遅いじゃないか。あの宿泊率なら残業にはならないはずだ」

「ざ、残業じゃなくて、ロッカールームでちょっとおしゃべりしてただけ。宗くんこそ忙しいんだから、迎えにこなくていいっていつも言ってるじゃない」
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