冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
外では厳しかったという富美子だが、日奈子にとっては優しいおばあちゃんのような存在で、ただ可愛がってもらったという記憶しかない。

富美子は、万里子と日奈子親子をないがしろにしないようにという遺言を遺して亡くなった。
 
宗一郎の両親宗介と敬子(けいこ)は気のいい人たちで遺言の通り、富美子が亡くなったあとも家政婦として勤めていた母を大切にし、なにかと頼りにしていた。

日奈子も本当の娘のように可愛がってくれている。
 
物心がついた時からずっと近くにいた八歳年上の宗一郎は、日奈子にとっては優しくてなんでも願いを叶えてくれるスーパーマンのような存在だった。

小さな頃は遊んでくれたり絵本を読んでくれたり。母に叱られて泣いている時にこっそり慰めてくれたこともある。
 
成長してからは、勉強も教えてくれた。母の給料と日奈子のアルバイト代では学費を捻出するのが精一杯で日奈子が塾に行けなかったからである。

現役で観光学科のある大学に合格できたのは彼の力が大きい。

「明日は、実家に行くのか?」
 
前方を見たまま、宗一郎が尋ねる。実家とは九条家のことだ。

母亡き後、九条家を出てひとり暮らしをしている日奈子を九条夫妻は心配していて、月に一度は顔を見せるように言われている。

「うん、宗くんは?」

「俺は朝から遠方へ出張だ」
 
宗一郎も日奈子と同時期に家を出て本社近くのマンションでひとり暮らしをしている。

明日出張ならなおさら迎えに来なくてよかったのにと思ったが、口には出さなかった。
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