冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
流れる景色を見つめながら、さっき莉子に言われた『好きな人はいないんでしょう?』という言葉を思い出していた。
 
しばらくすると車が停車する。日奈子のマンションの前についたのだ。

「もう少しセキュリティの高い物件にしろ」
 
マンションを見上げて宗一郎が不満そうにする。

彼はいつもそう言うが、日奈子のマンションは、オートロック付き五階建の築浅の物件で飛び抜けてセキュリティが低いというわけではない。

「これ以上のところは無理だよ」
 
彼が納得するマンションはそれこそコンシェルジュ付きの各階専用エレベーターがあるようなところだ。日奈子の給料で住めるわけがない。

「だからそれは、俺が……」

「ありがとう、宗くん。おやすみなさい」
 
日奈子は彼の言葉を遮って、ドアの取手に手をかけた。彼の言葉の続きは聞かなくてもわかる。

"家賃なら俺が負担する"
 
この話はふたりの間でずっと平行線だ。
 
そんなことまでしてもらう理由はない。兄妹のように育ったとはいえ、ふたりは本当の家族ではないのだから。
 
車を降りて彼に手を振り、日奈子は浮かない気持ちでマンションのエレベーターに乗り込んだ。光る数字を見つめながら日奈子は自分に言い聞かせる。
 
——彼のこの優しさは、祖母の遺言を守らなければならないという、義務感からくるものだ。
 
そうでもしないと、どうにかなってしまいそうだった。
 
家へ入り電気をつけると日奈子はすぐにカーテンを開け、窓の外の宗一郎の車から自分が見える位置に立つ。

しばらくすると車が静かに発進した。
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