冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
苦しげに彼は言う。
 
さっきの話は、ふたりにとって重要なことだ。

中途半端なままはお互いに少しつらい。かといって、会社トップのスキャンダルは業績に影響しかねない。早急な対応が必要だ。
 
これが、ホテル九条にすべてを捧げるということなのかもしれないと日奈子は思う。プライベートは犠牲にして、会社のことを第一に考え、行動する。

今までだって彼は、ほとんどの時間を会社のために使ってきたのだ。
 
——その彼を理解し、支えられるのは自分しかないという強い思いが日奈子の胸を貫いた。自らの使命をまっとうする彼のそばにいられるのは自分だけだ。

「私、待ってるから」
 
はっきりとした声で日奈子は言った。

「すべてが終わったら、宗くんに聞いてほしい話があるの。だから、私、待ってる。宗くんは、今やらなくちゃいけないことに集中して」
 
すべてが終わったら、自分の気持ちと母の願いを、はじめからきちんと話そう。そう決意して日奈子は言う。
 
思いを込めて彼を見つめる。

「大丈夫。宗くん、私もう決めたから」
 
それで、日奈子の想いは宗一郎には伝わったようだ。どこか安心したように頷いて、微笑んだ。

「……わかった。電話とメールはできるだけする。遅番の時はちゃんとタクシーを使うんだぞ」
 
そして日奈子がマンションのエントランスを潜ったのを確認して、記者の方へ歩いていった。
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