冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
宗一郎が受け取り、開いていいか確認するように日奈子を見る。

日奈子が頷くと彼ははじめのページを開いた。

《日奈子へ》で始まる母の言葉に、宗一郎が懐かしそうに目を細めた。

「万里子さんの字だ」

「うん、お母さん、自分が亡くなったあとも私が生きていけるように、このノートにたくさんの言葉を書いてくれたの」
 
宗一郎が、ゆっくりとページをめくり感慨深げに口を開いた。

「懐かしいな、この綺麗な字と丁寧な言葉遣い。……俺が中学高校の頃、夜遅くまで勉強してて腹が減ってキッチンへ行くと夜食が置いてあってさ、"こんを詰めすぎないように"っていう万里子さんからのメモも添えてあったんだ。厳しいだけだったばあさんの教育に耐えられたのは万里子さんがいたからだよ」

 その言葉に、ありし日の母を思い出して日奈子は胸がいっぱいになった。宗一郎の母が日奈子を大切に思ってくれているように、母は宗一郎のことを大切に思っていた。
 
宗一郎はノートに書かれていることを読み笑みを浮かべる。

「さすが万里子さんだな。日奈子のことをよくわかっている。普段から日奈子に言ってたこと、そのままじゃないか。休日は寝てばっかり、朝ごはんはちゃんと食べろ、……万里子さんの声が聞こえてくるみたいだ」
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