冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
それを頼りに日奈子は母亡き後の生活を送ってきた。
耐えられないほどの喪失感に押しつぶされそうな時も、ノートに書かれていることを守り続けていれば、母がそばにいるような気持ちになれたから。
その最後のページを日奈子は開く。
そこには、母からの切実なメッセージが書かれている。
《絶対に、宗一郎さまを好きになってはいけません。家族のように優しくしていただけたとしても、彼とは立場が違います。大奥さまを裏切るようなことはしないでね》
母は、日奈子の宗一郎に対する恋心に気がついていたのかもしれない。
日奈子が中学生になった頃からどこかふたりを遠ざけるようになっていた。
もっとも宗一郎に若い女性を近づけないというのは富美子の意向でもあった。
彼女は、早くから宗一郎に経営者としての才覚が備わっていることに気がついていて、彼に厳しい英才教育を施した。
『宗一郎にはいい人と結婚して、ホテル九条をさらなる発展へと導いてもらいたい』
母に向かってそう言っているのを何度耳にしたことか。
九条家で宗一郎に接する使用人は万が一のことがないように、若い女性は避けられていた。
まったく恋人がいなかったというわけではないのに、三十三歳の宗一郎が未だ独身なのは、おそらく富美子の意向を尊重して相手を慎重に選んでいるからだ。
耐えられないほどの喪失感に押しつぶされそうな時も、ノートに書かれていることを守り続けていれば、母がそばにいるような気持ちになれたから。
その最後のページを日奈子は開く。
そこには、母からの切実なメッセージが書かれている。
《絶対に、宗一郎さまを好きになってはいけません。家族のように優しくしていただけたとしても、彼とは立場が違います。大奥さまを裏切るようなことはしないでね》
母は、日奈子の宗一郎に対する恋心に気がついていたのかもしれない。
日奈子が中学生になった頃からどこかふたりを遠ざけるようになっていた。
もっとも宗一郎に若い女性を近づけないというのは富美子の意向でもあった。
彼女は、早くから宗一郎に経営者としての才覚が備わっていることに気がついていて、彼に厳しい英才教育を施した。
『宗一郎にはいい人と結婚して、ホテル九条をさらなる発展へと導いてもらいたい』
母に向かってそう言っているのを何度耳にしたことか。
九条家で宗一郎に接する使用人は万が一のことがないように、若い女性は避けられていた。
まったく恋人がいなかったというわけではないのに、三十三歳の宗一郎が未だ独身なのは、おそらく富美子の意向を尊重して相手を慎重に選んでいるからだ。