冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
それについて日奈子は、そうではなく本心から彼を愛していると自分の口で説明した。顔から火が出そうなくらい恥ずかしかったが、ふたりはそれで納得した。
 
そして両手をあげて結婚に賛成し心から祝福してくれた。それはとてもありがたいことなのだが、こんな時は少し困ってしまう。
 
ふたりの前での、宗一郎の日奈子への態度は以前とそれほど変わらないと思うのに、こうやってことあるごとにニヤニヤとされてしまう。

嫌だというわけではないけれど、とにかくすごく恥ずかしい。
 
宗一郎の方が平然としてるのが信じられない。

「式の間、あまりものを口にできないかもしれないから、お色直しの際に軽食を準備するように言ってある。お腹が空いてないと思ってもしっかり食べるんだ」

「ありがとう……」
 
そんなふたりのやり取りに、敬子はふふふと笑い、少し考えてから真面目な表情になった。宗介を振り返り、「あなた」と呼び目配せをする。
 
宗介が「ああ」と言って日奈子のそばに歩み寄る。
 
そしてふたりして真剣な表情で日奈子を見た。

「ひなちゃん、宗一郎と結婚式を挙げる前に、ひとつだけ言っておかなくちゃいけないことがあるの。宗一郎とひなちゃんが結婚するにあたって約束してほしいこと。これを約束してくれないなら残念ながら結婚に賛成できないわ」
 
いつになく真剣な敬子に、日奈子の胸がどきりとする。どこかでやはりと思う。
 
宗一郎の結婚相手についてはノータッチだった彼らにも息子の結婚について思うところがあるのだろう。

旧財閥家の特有のしきたりもあるだろう。祝福はするけれど、譲れない部分があったとしてもおかしくはない。
 
宗一郎が、眉を寄せた。

「母さん、今さらそんなこと……」
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