冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
ホテルマンとしての作法が身に染みついている彼は、むろん客ではない。
日奈子は、隣に立つ同僚の東田莉子(ひがしだりこ)に目配せをする。
彼女は小さく頷いた。
それを確認して後方のドアから事務所の中へ移動する。
男性が来たことを中にいるチーフに知らせるためだ。
「チーフ、副社長がお見えになりました」
中でパソコンに向かっていたチーフに声をかけると、彼はやや苦々しい表情になり、しぶしぶといった様子で立ち上がった。
「ったく、こうしょっちゅう来られたら、仕事にならないな」
今ロビーにいるのは、ホテル九条グループの代表取締役副社長、九条宗一郎(くじょうそういちろう)だ。
普段は近くの本社ビルにいる彼は何日かに一度業務の合間を縫って、ホテルの方へも顔を出す。
現場を直接自分の目で見て諸所不備はないかを確認するためだ。
現社長九条宗介のひとり息子で御曹司という立場にありながら、彼は入社してすぐはここでホテルマンとしての経験を積んだ。
だから客への対応からフロアの設備まで見る目がほかの役員とは段違いだ。
現場スタッフにその場で厳しい指導が入ることも珍しくない。
だけど日奈子はそれを、鬱陶しいとは思わなかった。
接客については、宗一郎の存在にかかわらずやることは変わらないし、不備があるならばむしろ指摘される方がありがたい。
しょっちゅう来られては仕事が進まないとチーフは愚痴るが、本来はそんなことはまったくない。
宗一郎はしばらくロビーを見回って問題なければそのまま本社へ戻っていく。忙しい業務の中の隙間時間を利用して来るからだ。
日奈子は、隣に立つ同僚の東田莉子(ひがしだりこ)に目配せをする。
彼女は小さく頷いた。
それを確認して後方のドアから事務所の中へ移動する。
男性が来たことを中にいるチーフに知らせるためだ。
「チーフ、副社長がお見えになりました」
中でパソコンに向かっていたチーフに声をかけると、彼はやや苦々しい表情になり、しぶしぶといった様子で立ち上がった。
「ったく、こうしょっちゅう来られたら、仕事にならないな」
今ロビーにいるのは、ホテル九条グループの代表取締役副社長、九条宗一郎(くじょうそういちろう)だ。
普段は近くの本社ビルにいる彼は何日かに一度業務の合間を縫って、ホテルの方へも顔を出す。
現場を直接自分の目で見て諸所不備はないかを確認するためだ。
現社長九条宗介のひとり息子で御曹司という立場にありながら、彼は入社してすぐはここでホテルマンとしての経験を積んだ。
だから客への対応からフロアの設備まで見る目がほかの役員とは段違いだ。
現場スタッフにその場で厳しい指導が入ることも珍しくない。
だけど日奈子はそれを、鬱陶しいとは思わなかった。
接客については、宗一郎の存在にかかわらずやることは変わらないし、不備があるならばむしろ指摘される方がありがたい。
しょっちゅう来られては仕事が進まないとチーフは愚痴るが、本来はそんなことはまったくない。
宗一郎はしばらくロビーを見回って問題なければそのまま本社へ戻っていく。忙しい業務の中の隙間時間を利用して来るからだ。