冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
* * *

白い外壁のマンションの三階の窓、水色のカーテンから日奈子が顔を出したのを確認して、宗一郎は車を発進させた。
 
幾度となく通った道を自宅へ向かって車を走らせる。どこか胸が浮き立つのを感じながら。
 
日奈子が宗一郎との関係に、猶予期間を設けることに同意した。

目を伏せてこくんと頷いた時のほんのりと染まる頬に、ここまでの喜びを覚える自分はつくづくめでたい奴だと思う。
 
一度は断られたのだ。

なんとかスタートラインに立てただけで、マイナスからの始まりだとわかってはいる。
 
それでも走り出すこの気持ちを、止めることはできなかった。
 
——だがそれは仕方がないことだった。
 
宗一郎は、それほどまでに深く日奈子を愛しているのだから。
 
彼女の母鈴木万里子が日奈子を連れて九条家へ来たのは、宗一郎が八歳の時だった。九条家の屋敷で住み込みで働く家政婦にシングルマザーを雇うのは異例中の異例のこと。

父ははじめ反対したが、九条家にとって絶対的な存在で、人を見る目が備わっていた富美子の決定に逆らうことはできなかった。
 
結果その選択は正しかったと言えるだろう。

鈴木万里子は、気難しい富美子をよく支え、彼女への接し方に悩んでいた両親の良き理解者となった。

それまではどこかギスギスしていた九条家がその後も穏やかな関係でいられたのは、万里子の功績だと宗一郎は思っている。
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