冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
そして娘の日奈子もまた九条家を明るくする存在だった。

コロコロとよく笑う可愛らしい彼女に、父と母はおろか富美子でさえも虜になって彼女を本当の家族のように可愛がった。
 
そしてそれは宗一郎も同じだった。
 
ひとりっ子で、小さな子供を見慣れていなかった宗一郎の目に、当時一歳の日奈子ははじめは珍しく映った。

宗一郎を『とーくん』と舌足らずに呼びながら、よちよちと後をついてくる様子に、心奪われ、次第に宗一郎にとってなくてはならない存在になっていった。
 
おそらくそれはただ彼女が可愛かったというだけでなく、宗一郎の特殊な育ち方が関係しているのだろう。
 
当時、宗一郎に対する富美子の英才教育が本格化していたからである。
 
富美子は、宗一郎の父である宗介には経営者としての才覚は備わっていないと考えていた。

一方で、孫の宗一郎はホテル九条のトップに立つ器があるとよく言っていて『宗介、お前は、会社を傾けることなく宗一郎に引き継ぐことを目標としなさい』と息子に命じていた。
 
そして宗一郎に対しては厳しい英才教育を施した。

『宗一郎、お前にホテル九条の将来がかかっている。常に完璧を求め努力し続けることを忘れずに』
 
幾度となく言われた言葉だ。
 
祖母から彼女流の帝王学を受けたことは今となっては感謝している。

あの日々がなかったら、ここ数年の会社の業績回復はなかっただろう。

でもその当時は、両親にも口を挟ませない祖母のやり方を、つらいと思うことが多かった。
 
学校のテストは必ず満点でなくてはならず。

ケアレスミスも許されない。それでいて、一切褒めてもらえることはなかったのだ。
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