冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
心配になって日奈子は尋ねる。わざわざ会って言わなくてはならない重大ななにかが発生したのだろうかと思ったのだ。
 
例えば九条夫妻になにかあったとか……?
 
深刻なことを思い浮かべる日奈子とは裏腹に、宗一郎が気楽な調子で肩をすくめた。

「べつに、なにもないけど」

「なにもないって、じゃあ……どうして来たの? こんなに朝早くに」

「どうしてって……。日奈子に会いたいからに決まってるじゃないか。たまの休みを、好きな人と過ごしたい。ただそれだけだよ。……まさか日奈子、俺の告白を忘れたわけじゃないだろうな? 二回も言ったのに」
 
呆れたように宗一郎が言う。
 
日奈子は慌てて口を開いた。

「わ、忘れてなんかないよ……! だけど……」
 
と、そこで口を噤み考える。

そして好きな人と一緒にいたい、顔を見たいということがあたりまえの感情なのだということに気がついた。
 
……遥か昔の記憶だが、日奈子にもそんな時があった。

大学生になった宗一郎があまり屋敷に帰らなくなって、それを寂しく思っていた。

でも彼に対するその気持ちが恋だときがついてからは、逆のことを考える癖がついたのだ。
 
なるべく宗一郎と顔を合わせないようにして、考えないようにして、恋する気持ちがこれ以上大きくならないように、一生懸命押し殺していた。
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