冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
一カ月前にも誘われて、SNS評判のタイ料理カフェに行った。その時もガパオライスを注文した。

「……でもこんなに美味しく感じるのははじめて」
 
自分で自分に驚きながら日奈子は言う、
 
美味しく感じるのがはじめてと言うより、今はじめてガパオライスを食べたように思えるくらいだった。

正直言って、莉子と行ったカフェで食べたガパオライスは、どんな味だったかも思い出せないくらいだ。まだ一カ月しか経っていないのに。
 
宗一郎が眉を上げて、キッチンワゴンを見た。

「美味い店が来てたのか。もしくは外で食べてるからかもしれないな」

「……かもしれないね」
 
答えながら、でもきっとそれだけではないと日奈子は感じていた。
 
莉子と行ったタイ料理カフェも味がいいので人気で、実際舌に肥えているアジアン料理通の彼女が大絶賛していたのだから。
 
日奈子がその味を楽しめなかったのは店側ではなく、日奈子側に理由があるのは間違いない。
 
……そもそもこんな風に食事を楽しむことも久しぶりだ。
 
ふたりが座るベンチの上にはガパオライス以外にも山盛りのポテトフライと冷やしりんご飴が並んでいる。いい香りをさせるキッチンカーを見ていたら、どれも食べたくなったのだ。

少し買いすぎたようにも思えるが、こんなこともここ最近ではなかったことだった。
 
揺れる木の葉を気持ちよさそうに見上げている宗一郎の綺麗な横顔を見つめて、日奈子はそんなことを考えていた。
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