冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
ぷりぷりしながらも、気に入って日奈子は買うことにする。自分が作る時のお手本にもなりそうだ。

「ありがとうございます」
 
ナマケモノを袋に包む出品者に、ふと思い立って問いかける。

「すごくお上手ですね。どれも本物みたいに可愛い。作りはじめてどれくらいになられるんですか? 私、今日の午前中にはじめてやってみたんですが、なかなかうまくいかなくて」

「え? 今日からですか? わぁ、羊毛フェルトの世界へようこそ! 私は、そうですね半年前くらいから始めました。もともとハンドメイドは好きだから……。ちなみにどのあたりがうまくいかなかったですか?」

「そもそも形がうまくいかなくて。オカメインコを作ろうと思ったんですけど、なんか妙にふとっちょになっちゃって……」
 
そんな話をしながら日奈子の心は弾んでいた。

こうやって出品者と品物についての話をするのもこうした手作りマーケットの醍醐味だ。

日奈子がビーズアクセサリーのブースで出店した時も、客からいろいろ聞かれたものだ。

希望のデザインを聞いてその場で新しいものを作ったして……。
 
でもそれを見守る宗一郎が視線の端でジャケットのポケットに手を入れたのに気がついてギョッとする。彼がポケットから手を出す前に尋ねる。

「待って、宗くん。なにを出すつもり?」

「なにって、そのオカメインコだよ」
 
彼は当然だというように答えた。
 
そう、今彼は、日奈子が午前中に作ったオカメインコをポケットに入れて持っているのだ。
 
出来上がりに満足できなかった日奈子が、とりあえずこれは飾らずに袋にしまっておこうと言うと、『なら俺にくれ』と言ったのだ。

了承すると、すぐにジャケットのポケットにしまっていた。
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