グリーンピアト物語り ~光と愛~
脱出

 結婚して2年が経過した頃、ニールスの浪費癖が原因で家計が赤字に陥り、「お前は働け!」と命じられたイーシスは医師として職場に復帰した。ニールスは「10億ギロ返せるなら、いつでも離婚してやる」と言い放ち、イーシスを侮辱しながら贅沢な生活を続けた。イーシスが稼いだお金はニールスによって全て使われ、貯金することもできなかった。
 ガレッティアは北グリーンピアトでつつましく生活をしている。
 フェディアは病が重くなりイーシスが結婚して1年後に他界していた。

 イーシスはニールスとの共同生活に疲れ切って、このまま死んでしまいたいと思った。

 買い物に行くと言って一人で海辺に来たイーシスは、そのまま海に入ろうとした。しかし、そこにいたフェアンヌがイーシスを救ったのだった。
 フェアンヌは以前からニールスの傲慢な態度を耳にしており、イーシスを何とか助けたいと思っていた。北グリーンピアトへの訪問の機会がなかなか得られず、ようやく訪れることができたのだった。
 
 フェアンヌに救われたイーシスはひどく痩せていた。まともな食事を与えられず、食べるものが欲しければ残飯で我慢するようニールスは言い、時にはゴミ箱の残飯をイーシスに投げつけた。イーシスはニールスに見つからないようにこっそりと自分だけの食事を用意していたが、作れる量は限られており、発見が少し遅れていたら栄養失調で倒れていたかもしれない。
痩せ細ったイーシスに対し、ニールスは常に「お前は10億で買った野良犬と同じだ。逃げても地の果てまで追いかけてやる」と暴言を吐き脅していた。

 フェアンヌはその日のうちにグリーンピアトへ戻る連絡船にイーシスを乗せた。着の身着のままで、イーシスはグリーンピアトへ向かった…。


グリーンピアトに到着したイーシスは長い間怯えていたが、フェアンヌの献身的なケアにより徐々に心の平穏を取り戻し、グリーンピアト滞在から1年後には医師としての職務を再開できるようになった。

フェンヌがイーシスをグリーンピアトに連れてきてから半年が経ち、国立病院での匿名勤務を続けている中、ルキアスが訪れ、イーシスは再びアディールとの再会を果たすことになった。



「ウィンディア、もう心配無用です。ニールスへの10億の借金はすべて消えました」
「それはどういうことですか?」

「真実が明らかになったのです。ニールスは多くの医療ミスを隠していました。その証拠をフェンヌ院長が見つけ出してくれたんです」
「フェンヌ院長が? でも、10億はどうやって…」

 イーシスは唇を強く噛みしめた…。

「10億は私が支払いました」
「え? 国王が? どうしてですか?」

「サーフィーネを産んでくれたお礼です。それだけでは十分ではありませんが」
「何をおっしゃるんですか? お礼など…失礼なことをしたのは私の方です」

「いいえ、ルキアスは今もあなたを愛しています。だから、目が見えない中でもあなたに会いに行ったんです。その右手、ルキアスが治したんですよね?」

 治す…まさか、皇子が治癒魔法を使えるの?
 息をのんだまま、イーシスは答えなかった…。

「ルキアスは天使ユーリスの血を濃く受け継いでいるようです。そして、王家に伝わる伝説の力も持っています。しかし、それは誰にでも使えるわけではない。愛する人にだけ使えるのです」

 突然のことに、イーシスは混乱し、どう答えていいかわからなくなった。

 私は表に出られない…出てはいけないと思い、生きてきた。
 あの事故でなぜ生き残ったのか、未だにわからない…。

 イーシスが動揺しているとパリン! と、アディールの傍に会った水の入ったコップにひびが入った。

 また…やってしまった…。
 イーシスはギュッと唇をかみしめた。

「お気になさらず。すみません、突然驚かれてしまったのですね」
「い、いいえ…」
「ウィンディア。コップがひびが入っても、新しいものが買えます。でも…貴女を失ってしまうと代わりの人はいません。それに、サフィーネの母親は…貴女だけなのですから…」

 サフィーネの事を言われるとイーシスは胸が痛んだ。
 
「…お母さん…」
 幼いサフィーネの声が聞こえて、イーシスはハッと我に返った。
「お母さん」
 サフィーネは真っ直ぐにイーシスを見つめていた。
「お母さん。僕、お母さんと一緒にいたい」

 お母さん…そう呼んでくれるの? 
 イーシスの目が潤んできた。
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