グリーンピアト物語り ~光と愛~

 総合受付の接客室へ通されたルキアスと付き添いのブッドル。
 
 黒いソファーに向かい合って座るルキアスとフェンヌ。
「今回の手術を担当させていただきます、院長のフェアンヌです」とフェアンヌが挨拶すると、ルキアスはその方向を見つめた。
「よろしくお願いします」とルキアスは優しい声で応じた。

「早速ですが、手術は来週に予定されています。前日からの入院をお願いします。入院期間中は警護を強化し、完全看護体制で対応しますので、ご安心ください」
「はい…」

「私が主治医を務めますが、助手として別の医師も同席します」
「助手の方は?」
「はい、以前から北グリーンピアト総合病院で脳外科医として活躍されていた女性医師が参加してくれます。非常に腕の良い医師で、以前から当院での勤務をお願いしていましたが、なかなか了承してくれませんでした。しかし、今回グリーンピアトでの用事があり、それに合わせて当院での勤務を快諾してくれたのです」
「そうですか…北グリーンピアト…」

 北グリーンピアト…。あの人の事を考えていたからだろうか? すごい偶然…いや…偶然じゃないこれは…。
 

 5年前、ルキアスは北グリーンピアトを目指した。
 目的は、名医ガレッティアに診てもらうことだった。
 大学生の時、友人を階段からの転落から守るために自らが転落し、その後遺症で視力が低下し始めた。国立病院では手に負えないと言われたが、北グリーンピアトの脳外科医であるガレッティアなら何とかできるかもしれないと、紹介状を書いてもらい、気分転換を兼ねて彼の元へ向かうことにした。

「もう死んでもいい」と思っていたルキアスだが、北グリーンピアトへの旅客船の中で出会った女性から「決して生きることを諦めないで」と言われ、生きる希望を取り戻した。

 しかし、北グリーンピアトへの途中で旅客船が爆破事故に遭い沈没した。
 ルキアスは救助船で助けられ、南グリーンピアトへ向かう別の旅客船でグリーンピアトへ戻った。報道によると、爆破事故では富裕層が優先的に救助され、一般庶民は海に沈んだという。
 海水温度はマイナス40度で、溺れたら凍死すると言われていた。
 生きる希望を取り戻したものの、結局グリーンピアトに戻され、5年が経過した。
 かすかに見えていた視力も今はほとんど失われてしまった。

 それでも、ルキアスは旅客船で出会ったあの女性を忘れられずにいる。
 短く切られた美しいブロンドの髪、この世のものとは思えないほど白い肌を持つ、まるでお姫様のような女性だった。
 見えなくなる前に、その姿をしっかりと記憶に焼き付けておきたかった。
 そして…

 「先生、その女医さんのお名前は何ですか?」
「彼女の名前はイーシスです。」
「イーシス…」
ルキアスはその名前に何となく違和感を覚えた。

「先生、手術前にイーシス先生にお会いできますか?」
「え? 」
「僕の手術の立ち合いをして頂くなら、挨拶をしたいんです。」
「そうですか。ただ、イーシスは手術の日以外は姿を現しませんが…」

「ん? それはどういうことですか?」
 ルキアスは何か見えないものを探るように、じっとフェアンヌを見つめていた。

 隠し事をしているかのようなフェアンヌ。
 その後ろで、悲しげな表情を隠すかのようにうつむいている女性が見えた。
 その女性は顔に火傷の跡があり、首にもただれたような痕が見える…それを隠すかのように髪を長く伸ばしていた。

 その女性を見た瞬間、ルキアスは胸が痛むのを感じた。

「先生が会わせてくれないなら、僕が自分で探して会いに行きます」
「ちょっと待ってください。会わせないわけではありません」
「その先生、顔に酷い火傷の跡がありますよ?」
「え? 」
「もしかして、あの事故の被害者ですか?」
「どの事故のことですか?」
「5年前に北グリーンピアト行きの客船が爆発した事故のことです」

 フェアンヌは顔を蒼白にしていた。

「当たっていましたか?」
 驚いた顔のまま、フェアンヌはゆっくりと頷いた。
「はい、その通りです。」

 やはり…。
 僕に会うと、何かまずいことがあるのでしょうか?
 それとも、容姿が気になるのでしょうか?

「先生、わざわざ北グリーンピアトから来てくださったのですから、事前に挨拶をするのは礼儀です。」
「そうですが…」
「お願いします。イーシス先生にお会いさせてください。」

 少し困ったような表情をしたフェアンヌだったが、
「わかりました。そこまで言うのであれば、イーシスにお会いさせます。」
「ありがとうございます。」

 話を終えたルキアスは、女医のイーシスに会いに行くことにした。
 
< 3 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop