グリーンピアト物語り ~光と愛~
話題になっていたイーシスは今日外来を担当し、ちょうど最終診察を終えて事務所に戻ったところだった。
カルテを持ちながら廊下を歩き、医師たちが集う事務所に戻るイーシス。彼女は女性としては背が高く、スラリとしており、美しい長いブロンドの髪が肩まであり、顔を隠すようにかかっていた。
大きなマスクをつけ、長い前髪で顔がほとんど隠れているが、見える部分には痛々しい火傷の跡があり、首にも続いていた。
手の甲にも火傷と傷跡が残り、医師である彼女は患者のように見えた。
イーシスが事務所に入ると、他の医師たちが注目した。
彼女はそんな視線を気にせず、席に戻りカルテ整理を始めた。
「すごいよな、あの火傷跡」
「ああ、あんな姿で医者になろうと思ったなんてな」
離れた席にいた男性医師たちが小声で話し始めた。
「何かの爆発事故に巻き込まれたのかな?」
「どうだろう。あんなひどい火傷は、普通の火事ではないと思うけど」
男性医師たちの小声の会話を無視して、イーシスはカルテ整理を続けた。
ドアが開き、フェアンヌが入ってきた。
「イーシス先生、少々よろしいでしょうか?」
フェアンヌに呼び止められ、イーシスは手を休めて振り返った。
「イーシス先生、是非ともご挨拶をとのことで、皇子様をお連れしました」
え? と驚くイーシスのそばに、フェアンヌがルキアス皇子を連れてきた。
「ほら、皇子様がわざわざイーシスに会いに来ている」
「どういうわけだ、イーシスは単なる助手で、手術に同席するだけのはずだろう?」
ヒソヒソ話していた男性医師たちが驚いた顔で見守っていた。
「イーシス先生ですね?初めまして、ルキアスと申します」
ルキアスは見えない目で優しく微笑みながら声をかけてきたが、イーシスは申し訳なさそうに立ち上がった。
「初めまして。医師のイーシスです」
見た目とは異なる清らかで美しい声に、ルキアスの顔が和らいだ。
「お声がとても綺麗ですね」
そう言って、ルキアスは右手を差し伸べる。
「イーシス先生、手を握らせていただけないでしょうか? 僕は目が不自由なので、話す時は相手の手を握ることで安心します」
フェアンヌは少し驚いたような表情でルキアスを見つめた。
さっきの会話ではそんなことは言っていなかったが…何故かイーシスを見たら急に明るい表情になったような気がする。いや…さっきの会話で何か感じたのではないだろうか? イーシスを探し出してまで会いたいと言うくらいだから…。
フェアンヌは少し疑問に思った。
イーシスは躊躇しながらも、言われたとおりにルキアスの右手を握った。
握られたイーシスの手は、非常に細くて乾燥していた。
手の甲にはひどい火傷の痕と深い傷が残っていた。
「イーシス先生の手はとても温かいですね」
ルキアスは両手でイーシスの右手をしっかりと覆った。
傷ついたイーシスの手を優しく包むルキアスの手から、これまでに感じたことのない心地よい温もりが伝わってきた。
その温もりを感じたイーシスは、心が少し軽くなるのを感じた。
「伝わってきますよ、先生がとても優しい方だということが。先生なら、安心して手術を任せられます」
「…いえ、私はただの助手ですから…」
「それでも、そばにいてくださるだけで安心です」
見えない目でイーシスをじっと見つめるルキアス。
「大丈夫です、何も心配しないでください」
視力を失ったルキアスの目。
しかし、その目からはとても深い愛情を感じることができた。
ゆっくりと手を離した後、イーシスはそっと視線を落とした。
「お仕事の邪魔をしてしまい、申し訳ありませんでした。では、また」
丁寧にお辞儀をして、ルキアスはフェアンヌと共に去っていった。
イーシスはルキアスに握られた自分の右手を再び見た。
そして…。
「え? 」