グリーンピアト物語り ~光と愛~

「ただいま、父さん」
「顔色がいいな。何かいいことでもあったのか?」
「ええ、とても嬉しいことがありました」
「ほう、どんなことだ?」
「それは手術が終わってからのお話です」
「ん、わかった…」

 アディールは不思議そうな顔をしている。
 そのアディールを、サフィーネがじっと見つめていた。

 
 夕食後、アディールは執務室で仕事をしながら手を止め、携帯電話を取り出した。グリーンピアトでは携帯電話が普及しているものの、持てるのは裕福な人々や仕事上必要な人々に限られている。一般の平民には手が届かない。電波はほとんどどこでも繋がるが、山奥や最北の地では繋がりにくい場所がまだ多い。折り畳み式で小さくコンパクトなシルバーの携帯電話だ。

 一息つき、立ち上がりながら電話をかけ、窓際に歩み寄るアディール。
「…もしもし? …そんなに怖がらないでください。私は貴女を家族同様に大切に思っていますから…。今日は伺いたいことがあり、お電話しました」

 窓をそっと開けると、アディールは心地よい夜風を頬に感じて微笑んだ。
「ルキアスにお会いになったのですね? いえ、謝る必要はありませんよ。あなたとルキアスは、きっと強い運命で結ばれています。あんなに元気なルキアスを見るのは何年ぶりでしょうか。隠れる必要なんてないじゃないですか。」

 夜空を見ているアディールの目が、悲しげに潤んできた…。
「明日の夜。…帝国ホテルのカフェでお待ちしております。…サフィーネも連れてい行きますので…。来てくれない場合は、私がそちらに伺います…。よろしくお願いします…」

 電話を切った後、アディールはふと小さく微笑んだ。
「もっと早くこれをすべきだった…」

 再び書斎へ歩み、椅子に腰を下ろしたアディールは、引き出しから箱を取り出し、中の一枚の写真を手に取った。

 その写真には、若かれし頃のアディールと、隣には深い彫りのある端正な顔立ちの金髪の男性が映っていた。
 アディールは白いモーニングスーツを着ており、隣の男性は紺色のスーツで正装していることから、結婚式の際に撮影された写真であることがわかる。

「ガレッティア…君との約束は絶対に守るから、心配しないで」

 ガレッティアは、アディールの20年以上の学友であり、親友でもある。グリーンピアトの名門ボジェット学園の中等部からの親友で、アディールが王妃ユーリスに一目惚れした際も相談に乗ってくれた。北グリーンピアト出身のガレッティアは医師を目指し、大学ではアディールが法学部、ガレッティアが医学部へ進学。卒業後、アディールはユーリスと結婚し子供に恵まれ、即位して忙しくなる一方、ガレッティアは大学院で医師免許を取得し、外科医になった。国立病院で研修後、北グリーンピアトに戻り医師として働き、名医として名を馳せ、脳外科医のミリアーノと結婚し家庭を築いた。ガレッティアとミリアーノには双子の兄妹がおり、二人とも名医に成長したという。

 北グリーンピアトとグリーンピアトは遠く離れているが、20年以上の時を経て、ルキアスが大学で怪我をしたことがアディールとガレッティアの再会のきっかけとなった。ウィンディアという女医がルキアスの治療を担当し、その姿は若き日のガレッティアを彷彿とさせた。ウィンディアは「視力に影響が出る可能性があるので、異常を感じたら脳外科を受診することをお勧めします」とアドバイスし、アディールはその言葉を深刻に受け止めていた。

 その後、アディールはウィンディアのことが気になり、ルキアスの診察に同行して彼女のことを探り始めた。
 ウィンディアが北グリーンピアト出身で、研修医を終えたら帰郷する予定だと知ったアディールは、彼女にガレッティアという男性を知っているか尋ねた。
 ウィンディアは驚いた様子だったが、「ガレッティアは私の父です」と素直に答えた。
 アディールは、ガレッティアが長年の親友であったことをウィンディアに明かした。

 この出会いをきっかけに、アディールはウィンディアを通じて再びガレッティアとの繋がりを持つことができたのだった。
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