その狂愛からは、逃れられない。
*
「……どうしてっ、こんなことするのですか!?」
「あ? お前がいけねぇんだろ? 見合いなんてしようとするから」
「それは私の問題であり、光様には関係ないではありませんか!」
「お前の雇い主は俺だぞ? わかってんのか?」
「……ですが」
「つべこべうるせぇな。いいか蓮華。お前は一生俺のもんだ。勝手に結婚して出ていくなんて許さねぇ」
「っ……」
蓮華と呼ばれた黒髪の女性は目に涙を溜めながら、自信たっぷりに自分を見下ろす男をキッと睨んだ。
その細い手首には手錠が掛けられ、男に無理矢理ソファに押し倒されていた。
「だからって! こんなことをされても困ります! 私が行かなければ、私の両親の顔に泥を塗ることになります! そんなことになれば、もう私は両親に合わせる顔がありません!」
「そんなもん、俺が適当に言えばどうにでもなる」
「光様! そういう問題ではありません!」
蓮華の大きな瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
光様と呼ばれた男はそれを見て、ニィッと怪しく笑いながら蓮華の上に跨るようにソファに膝を乗せた。
その笑顔は、とても綺麗で、それでいてとても危ない。
蓮華は光の笑顔を見てゾワリと何か嫌なものが背中を這うように感じ、その腕には無数の鳥肌が立った。
歪んだ蓮華の顔を見る光は、どこか満足気に微笑む。
後頭部で髪の毛を纏めているシニヨンが、光の手によって最も簡単に解かれた。
ふわり、ウェーブがかった黒のロングヘアが揺れる。
光はそのうちの一束を手に取ると、大切なものを扱うかのようにそっと髪の毛にキスをした。
しかし、その御伽噺の王子様のような行動とは裏腹に、言動は悪魔のようだ。
「どっちにしろ、お前は明日の夜までここから出られない。見合いは諦めろ」
「そんな……」
蓮華は涙を流しながら、愕然とした。
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