その狂愛からは、逃れられない。
ここは、都内に佇む日本でも有数の旧財閥である三芳家の本邸。
代々三芳家の男児がその当主を継ぎ、家系を守ってきた由緒ある一家だ。
そんな三芳家の次男、光。二十歳。
蓮華と同じサラサラの黒髪と切れ長の瞳を持つ、イケメンだと名高い男。
彼は今、自分の専属のメイドである畑谷 蓮華を自分の部屋に軟禁していた。
どうしてこんなことになってしまったのか。事の発端は同い年の二人が生まれる前まで遡る。
旧財閥である三芳家と畑谷家は、古くから主従関係にあった。
当時事業に失敗した畑谷家当主が作ってしまった巨額の借金を、三芳家が建て替える代わりに生涯に渡って三芳家に仕える約束をしたのが始まりなのだとか。
それ以来代々畑谷家に生まれた子どもは、男女関係無く物心つく頃には三芳家の子どもの専属侍従になることが習わしだった。
例に漏れず、同い年、まして生まれたのは蓮華の方が先だったのにも関わらず、光の専属メイドとして小さな頃から育てられてきた蓮華。
自分たちの運命など露知らず、対等な関係で遊べていたのは幼稚園児までだった。
小学校に入学する頃には、光と会話する時には敬語を使うように厳しく指導された。
光の数歩後ろを歩くように指導され、隣に並んで歩くことを禁じられた。
光と対等でいることを禁じられた。
それは蓮華にとっても、光にとっても苦しいことだった。
──お互いがお互いを想っていたからこそ、葛藤があったのだ。
物心つく前からお互いが隣にいたため、一緒にいるのが当たり前だった。好きになるのは自然なことだったように思う。
しかし、突然主従関係を強制されて戸惑った。
そして二人とも、時を重ねるうちに抗えない自分の運命を理解した。