猛虎の襲撃から、逃れられません!(加筆修正中)

小刻みにステップを踏みながら相手の間合いを読む。
接近戦に持ち込もうとする相手が、じりじりと間合いを詰めて来る。

虎太郎はそれを避けるために、ステップを踏みながら微妙な距離を保つ。
だがそれは、徐々に押し出される形でもあった。

――あと3歩。

ラインから場外に虎太郎を押し出したと確信した相手が、一瞬隙を見せたその時。
虎太郎は腰を落とし、低い体勢から一気に順突(おいづき)(前に出した軸足と同じ側の手で突く)を仕掛けた。

「っぅぁあああーいっ!」

虎太郎の声が会場内に響き渡る。

「赤、中段突き、有効」

虎太郎の中段突き(1p)が決まった。

「虎太っ、いいぞ~」

小柳コーチの声が届く。
中央のラインまで戻り、深呼吸。

「始めっ」

試合再開だ。

1pを先取した虎太郎はステップを踏みながら、相手が焦り隙を見せるのをじっと待つ。
虎太郎のリーチの長さに若干委縮気味の塩島は、一瞬の隙を突かれたくなくて間合いを詰めれずにいる。
すると…。

「やめ」

主審が手刀を振り下ろす。
お互いに攻撃を放棄していると見做され、不活動行為で両者にペナルティ(-1p)が与えられた。

スコアボード(制限時間)を瞬視した虎太郎は、アリーナ席にいる人物へと視線を送る。
父親から借りたという大型望遠レンズを装着したカメラを構え、虎太郎へと視線を向ける最愛の人・雫だ。

虎太郎は呼吸を整え、精神統一を図る。
1回戦でビビってる場合じゃねぇ。
この大会を制して、オリンピックへの切符を手に入れるんだ。

「続けて始めっ」

主審の合図で試合再開。

虎太郎の瞳が、鋭く変化した。

< 105 / 154 >

この作品をシェア

pagetop