猛虎の襲撃から、逃れられません!(加筆修正中)

「冷たくて気持ちいいね」
「貸し切りっつーのも、いいっすね」

水深5メートル以上あるプールは、飛込競技やアーティスティックスイミングにも使われている。

「足が着く方のプールにする?」
「……大丈夫」

水泳も得意なの。
ジュニアの大会で優勝経験もあるからね。

「ホント、何でもできるんすね」
「可愛げないよね」
「いや、カッコいいっす」
「……カッコいいか」

かわいいって思われたいけど、たぶん一生無理だよね。

他愛ない話をしながら、ぷかぷかとプールの端に浮かぶ。

「俺と勝負しません?」
「勝負?」
「50メートル、負けた方が1つお願い事聞くっていうので」
「また~?」
「自信ないっすか?」
「……」

さすがに3年以上のブランクはきつい。
現役の運動選手相手に、勝てるとは思えないけど。

でも、負けてもいいかな。
彼がオリンピックに出るための英気になるなら。

「いいよ」
「っしゃあ!」

昨日の彼が嘘のよう。
すっかりいつもの虎太くんに戻ってる。

「5分間の練習タイムちょうだい」
「いいっすよ」

さすがにぶっつけ本番は無理。
それこそ、いきなり本気モードで泳いだら、足が攣りそうだもん。

準備運動も兼ねて、1往復軽く流す。
大丈夫、体が憶えてる。

空手同様、身についたものは、そう簡単には消え失せないらしい。

「準備はOK?」
「いつでもいいよ」
「位置について、よーいドンッ」

彼の合図に合わせて、スタートした。

スタート位置から25メートル辺りまではほぼ互角だったのに、少しずつ彼から遅れてゆく。
やっぱりアスリートとは筋力差が歴然だよね。

「ッハァッ……ッ……」

水から顔を上げると、彼が隣りのレーンからやって来た。
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