猛虎の襲撃から、逃れられません!(加筆修正中)
大学受験を控え、よそ見をしている暇はない。
志望校はA判定だけれど、絶対に合格できるとは限らない。
だから、今は勉強に集中したい。
「どういう意味っすか?」
「……そのままの意味だよ」
彼が小さな溜息をしたのが分かる。
幾つもの大会で優勝経験があるから、カッコよく見えるのかもしれない。
けれど、私にとったら過去なんてどうでもよくて。
むしろ、黒歴史的に思えるほど、忘れたい記憶だ。
「俺が先輩の過去を知ってるからですか?」
「……それもあるかな」
「他には?」
食い下がる彼。
玄関ポーチの内側に逃げ込もうとした私の手首をがしっと掴んだ。
「受験を控えてるから」
「俺が傍にいたら、迷惑ってことっすか?」
「迷惑というわけではないけど、……勉強に集中したいの」
「じゃあ、受験が終わったらいいってことっすね」
「へ?」
「大学受験が理由なら、終わったら俺のことを考えてくれるんすよね?」
「……」
「どうなんすか?」
「どう?って聞かれても……」
掴まれている手首がジンッと痛む。
彼が嘘を吐くような人には見えないし、揶揄って言ってるのだとも思えない。
だけど、彼の中の私は『強くてカッコいい女の子』であって、私がなりたい女の子じゃない。
今は憧れの子を目の前にして、幻を追いかけてるだけだ。
「もう空手はしないし、他の格闘技もするつもりないの」
「……だから?」
「津田くんの思い描く『カッコいい女の子』には、もうなれないよ」
「は?……俺がいつ『カッコいい女の子』がいいなんて言いました?」
「……」
「俺はそのまんまの先輩が好きなんすけど」
「………え?」