猛虎の襲撃から、逃れられません!(加筆修正中)
⑩ここは、俺だけの場所だから
新年を迎えて、あっという間に大学入学共通テストの当日を迎えた。
「雫、忘れ物ない?」
「うん、何度も確認したから大丈夫」
「ベストを尽くせばいいんだからね!」
「分かってるって」
うちの親は昔から『頑張って』とは殆ど言わない。
何でも器用にこなしてきたというのもあるけれど。
親なりに気を遣って言ってくれているのは分かる。
一人娘に気負わせないための励ましの言葉。
結果に囚われず、今ある力を出し切れればそれでいいと。
両親に見送られ、自宅を後にした。
*
駅の改札口を抜けた先に、彼がいた。
朝一番で励ましメールを貰ってたのに。
いつもより1時間くらい早い時間帯なのに。
「どうしたの?」
「先輩の顔見て、送り出したかったんで」
「……ありがと」
クリスマスに彼に気持ちを伝えてから、二人の関係が物凄く進展したというわけじゃない。
そりゃあ、キスはしたけれど。
あの日はちゃんと……?
キス止まりで過ごした。
無事に受験が終わるまで。
無事に志望校の合格通知が貰えるまでは、しっかりと一線は守ってくれると約束してくれた彼。
年末年始に何度か、ジョギング中だと言いながら、自宅に顔を見せに来てくれたけど。
別にそれ以外は初詣に合格祈願に行ったくらいだ。
「先輩なら大丈夫っすよ」
にかっと向ける笑顔が眩しくて。
元旦に初日の出を拝めたくらい縁起がいいと思えてくる。
「行って来るね」
「ファイトっす!」
「うん」
沿線が違うからその場で彼と別れた。
普段使わないホーム。
スマホの時計と睨めっこしていると、ちーちゃんとさっちゃんが一緒に現れた。
「おはよ、雫」
「おはよ~、ちーちゃん、さっちゃん」
「雫、早いね」