猛虎の襲撃から、逃れられません!(加筆修正中)

「どこに行くの?」
「必勝祈願っす」
「あぁ」

上野駅からすぐの上野東照宮。
徳川家康を祀る神社で、必勝祈願で有名なところ。



手水舎で手と口を清めてから、本堂の金色殿へと。

黒張りに金色が映える本殿は、戦争や地震にも崩壊を免れた貴重な江戸初期の建物。
辺りが薄暗くなっているにもかかわらず、煌々と輝いている様は荘厳で優美な印象を与える。

虎太郎が賽銭箱に硬貨をそっと入れた。

チャリチャリーンという音が反響し、少ししてパンパンッと拍手の音が響く。
二礼二拍手の所作も空手同様、美しさが際立っている。

彼が目を閉じたのを確認して、雫はお財布の中から常備している新札1000円を取り出し、賽銭箱へと入れた。

お賽銭は語呂合わせで、硬貨で賽銭する人が多いが、雫は祖父から『紙は人の気持ちを乗せやすい』と教わった。
また古札はたくさんの人の気持ちを乗せてしまうため、お賽銭をするなら『新札がいい』と。

そして、保険外交員の母親がいつも財布に必ず新札を数枚入れている。
世間では風水的に金運がアップすると言われているらしいが、『新しいご縁に恵まれる』と母はいう。

深々とお辞儀し、胸の高さで2回手を打つ。
そして、静かに瞼を閉じた。

心を込めて祈る。

『神様、今私の隣りにいる彼の願いを、どうか叶えて下さい』

最後に深々とお辞儀をすると。

「先輩、音がしませんでしたけど……?」
「……フフッ、しなかったね」
「え…」

お賽銭のチャリーンッという音のことだろう。
彼は硬貨だが、私はお札だから。
音がしなくて当然だよ。

「ご飯食べに行こう」

唖然とする彼の腕を掴んだ。


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