猛虎の襲撃から、逃れられません!(加筆修正中)


上野と言えば、とんかつ激戦区。
習い事をしていた頃は、試合前になると必ず両親に連れて来られた。

『勝つ=かつ』
試合の前はどこの家庭でも縁起を担ぐ。

いつもと違い、上野駅で待ち合わせすることになったから予想はついていたけど。
久しぶりのデートが、とんかつ屋さん。

初めてのデートはイケ活だったし。
うちらのデートは、甘い雰囲気とは程遠い。

「それ、旨いっすか?」
「一口食べてみる?」
「いいんすか?」
「うん」

彼が箸を置き、あーんと口を開けた。

店内は夕飯時ということもあって、ほぼ満席状態。

少し照れくささはあるものの、久しぶりのデートだからか。
雫は虎太郎の口へとヒレかつを運ぶ。

「旨っ、やわらかっ」

箸で切れると有名なヒレかつ。
男子には脂身が少なくて物足りないかな?とも思うけど。
この柔らかさは別格だよね。

彼からミニトマトを『あーん』されたことはあるが、自分からしたことがなかった。

「何気に今の『あーん』、お初だったね」
「……そう言われてみれば。俺は何度か先輩にしましたけどね」

私が美味しそうに食べているのが好きらしくて。
今までに何度かして貰った。

「今思ったんすけど」
「……ん」
「制服デート、してないっすね」
「……」

平日は部活があるし、稀に部活が早く終わっても、私が塾だったりして。
言われてみれば、一度も制服デートしてない。

「制服姿で手繋いでデートするの、夢だったんすけど」
「へ?」
「うわっ……すげぇショック。刹那のデートプラン、制覇するつもりだったのに…」
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