Good day ! 2
伊丹空港への進入は、必ず空港の南側にあるIKOMAというポイントから北西向きになる。

飛行機は基本的に向かい風に向かって離着陸する為、南風の場合は北側から南東方向に向かって滑走路に着陸する必要がある。

だが伊丹空港のすぐ北側は山が連なっており、まっすぐに最終降下する『ストレート・イン・ランディング』が出来ない。

その為、北西方向への進入で滑走路を視認したあと、空港の周りをぐるっと反対側へ回り込む『サークリングアプローチ』と呼ばれる着陸方式を取るのだ。

「Runway in sight」

眼下に見える滑走路を確認したあと、サークリングポイントに入る前にギアを下ろす。

「Gear down」
「Roger. Gear down」

右側を目視し、いよいよサークリングアプローチを始める。

「Right side clear」

飛行機の旋回に合わせて、後ろから吹いていた風が横風となる。

恵真は慎重にバンク角や旋回速度、遠心力を確かめながら機体を右に180度旋回させ、やがて滑走路の正面に回ると、無事に着陸した。

管制官の指示を受けて地上走行し、スポットインする。

全てのスイッチを切り、乗客が降機を始めると、恵真はふと窓の外に目を向けた。

同じようにサークリングアプローチで降下してくる飛行機が見える。

(あ!イルカ号だ。可愛いー!)

イルカのラッピングが施された他社のターボプロップ機が、きれいな弧を描きながら旋回している。

にっこり笑った口元のイラストが愛らしく、恵真は微笑みながら着陸を見守った。

両手を広げてちょこんと地面に下り立ったようなイルカに、恵真は満面の笑みを浮かべる。

(ひゃー!可愛いー!ナイスランディング)

心の中で拍手を送りながら身を乗り出して見つめていると、クスッと倉科が笑って声をかけてきた。

「イルカも可愛いけど、恵真ちゃんの方がもっと可愛いよ」

恵真は慌てて笑顔を収める。
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