Good day ! 2
「いいえ。私がおつき合いしているのは伊沢くんではありません。佐倉キャプテンです」

え…と倉科が目を見開く。

「あの佐倉と?そうなんだ…」

少し怯んだように下を向くが、すぐまた顔を上げた。

「でも相手が誰でも構わない。佐倉から君を奪ってみせる」
「それは無理です」
「どうして?人の気持ちなんてずっと続く保証はないよ。君だって、いつの間にか心があいつから離れていくかもしれないよ?」

恵真は首を振り、真っ直ぐに倉科に告げる。

「今の私がいられるのは、佐倉キャプテンのおかげです。その私が彼から離れていく事は、自分の人生の半分を、自分で否定する事になります。そしてこの先、佐倉キャプテンと一緒に過ごせないのなら…。それは私が自分の人生を、自分らしく生きられない事になります」

決意に満ちた瞳できっぱりと言い切る恵真に、倉科は言葉を失う。

やがてうつむき、ふっと笑みを漏らした。

「顔に似合わず男前なのは、操縦だけじゃなかったんだ…」

そして大きくため息をつくと、思い出したように話し出す。

「佐倉か…。なるほどね。言われてみれば君の操縦は佐倉に似てる。俺はいつだって、あいつには勝てないんだな。女の子にもてはやされて、教官にも操縦を褒められて、俺はいい気になっていた。誰よりも優秀で、モテるパイロットなんだって。佐倉はそんな俺の遥か上を、涼しい顔して飛び越えていったよ。モテたいとか、褒められたいとか、そんな下心なんて何もなくね」

自嘲気味に笑うと、知ってる?と恵真に聞いてくる。

「中途半端が1番やっかいなんだよ。中途半端にモテる、中途半端に上手い、中途半端に褒められる。結果、中途半端に自信がつく。本当に優秀なやつは、他人の評価なんて気にしない。誰かと比べたりせず、ただひたすら真っ直ぐに、自分の目標を見据えて努力する。佐倉みたいにね」
「はい」

恵真が頷くと、倉科はふっと優しく笑った。

「そしてこんな素敵な女性に愛される。当たり前か…。抜群にかっこいいんだもんな、あいつは」

倉科は手すりに手を置き、空を見上げた。

「俺も下ばっかり見てないで、上を目指さないとな。空はこんなに高いんだし」

恵真も一緒に空を見上げる。

「そうですね。私もまだまだ、上を目指します」

倉科は頷いて、また窓の外に目を向ける。

二人の視線の先には、雲1つない青空が広がっていた。
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