ヒーローは間違えない〜誰がために鐘は鳴るのか〜
限界突破
「ヒカルくん、困るんだよね、この間のプレゼン。他社と比べてパンチがなさすぎて、消費者からすると二番煎じ?に過ぎないじゃないかぁ!」
50代そこそこだが、5年前からするとかなり髪の毛が薄くなってきた横柄な態度のややポチャおじさんの罵声がフロアに響く。
「···」
言い返すのも面倒くさいのか、彼の座るデスクの前に立たされているアラサー女子、月野ヒカル(つきのひかる)は、ジッと、おっさん···失敬、田島課長の眉間を見つめることに終始した。
「だいたい、主任になってから益々たるんでるんじゃない?僕が目をかけてやったから出世したようなもんなのに、調子に乗ってない?正直、キミ位のレベルの女性はそこら中にいるんだよ」
ハァ、とため息を付いて田島は席を立つ。
「普通言わなくてもわかるだろ」
バン、と机を叩くと、ヒカルに反論させる時間も作らず、田島は部署のフロアを去っていった。
「何ですか?今の?何を怒ってるんですかね?」
今年入社したばかりの新入社員、立花美奈22歳が、おそるおそるといった体で、立ちすくむヒカルを下から覗き込んだ。
「···やって、られるか····」
「えっ?」
「うおー!クソモラハラオヤジにこれ以上付き合ってられるかってんだよう!!」
両腕を天井に突き上げたヒカルは、何かを振り切ったように雄叫びを上げた。
普段、穏やかで明るく、誰にでも優しい主任の変わりように、新人の美奈だけでなく、フロアのスタッフ全員が驚きの視線を向けた。
ただ一人、ヒカルと同期の中村和人を除いて。
「ヒカル、気持ちはわかるが、今に始まったことではないだろう。正気に戻れ」
「女の部下だからって何を言われてもいいってわけ?私は体の良いサンドバッグじゃないっつーの!」
ヒカルは、どしんどしん、と音を立てながら自分のデスクに戻ると、徐ろに机の引き出しに手を突っ込み、辞表と書いてある封筒を掴み上げた。
ちなみにこの辞表、提出しても受け取られなかった過去4枚に続いて、通算5枚目となる。
「あいつも懲りねえな···何度持ってっても無駄だっつーのに」
苦笑いの和人の声は、ざわめいているフロアの騒音に消されて、誰の耳にも届いていなかった。
50代そこそこだが、5年前からするとかなり髪の毛が薄くなってきた横柄な態度のややポチャおじさんの罵声がフロアに響く。
「···」
言い返すのも面倒くさいのか、彼の座るデスクの前に立たされているアラサー女子、月野ヒカル(つきのひかる)は、ジッと、おっさん···失敬、田島課長の眉間を見つめることに終始した。
「だいたい、主任になってから益々たるんでるんじゃない?僕が目をかけてやったから出世したようなもんなのに、調子に乗ってない?正直、キミ位のレベルの女性はそこら中にいるんだよ」
ハァ、とため息を付いて田島は席を立つ。
「普通言わなくてもわかるだろ」
バン、と机を叩くと、ヒカルに反論させる時間も作らず、田島は部署のフロアを去っていった。
「何ですか?今の?何を怒ってるんですかね?」
今年入社したばかりの新入社員、立花美奈22歳が、おそるおそるといった体で、立ちすくむヒカルを下から覗き込んだ。
「···やって、られるか····」
「えっ?」
「うおー!クソモラハラオヤジにこれ以上付き合ってられるかってんだよう!!」
両腕を天井に突き上げたヒカルは、何かを振り切ったように雄叫びを上げた。
普段、穏やかで明るく、誰にでも優しい主任の変わりように、新人の美奈だけでなく、フロアのスタッフ全員が驚きの視線を向けた。
ただ一人、ヒカルと同期の中村和人を除いて。
「ヒカル、気持ちはわかるが、今に始まったことではないだろう。正気に戻れ」
「女の部下だからって何を言われてもいいってわけ?私は体の良いサンドバッグじゃないっつーの!」
ヒカルは、どしんどしん、と音を立てながら自分のデスクに戻ると、徐ろに机の引き出しに手を突っ込み、辞表と書いてある封筒を掴み上げた。
ちなみにこの辞表、提出しても受け取られなかった過去4枚に続いて、通算5枚目となる。
「あいつも懲りねえな···何度持ってっても無駄だっつーのに」
苦笑いの和人の声は、ざわめいているフロアの騒音に消されて、誰の耳にも届いていなかった。
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