吸って愛して、骨の髄まで
さすがに見逃すことのできない状況を前にして、瞬時に思考を切り替える。
『(…彼女を救おう)』
言うまでもなく、名前も知らないあの子を救済することだけが頭を埋め尽くした。
そもそも自宅療養というのは真っ赤な嘘だ。
玲央奈が引っ越しをするからという理由で手伝いをしたり、寂しくなるから一緒にいる時間を増やしたいという過去最大級の我儘に付き合っていただけ。
生徒や先生たちの目をかいくぐって視聴覚室に行き、小瓶の中身を砕いたラムネに交換する作業が始まった。
最初はどうしてこんなに彼女を救おうとしているのか自分でも分からなかったけど、気がつけば僕は…薫子の虜になっていた。
毎日苦しそうな顔で小瓶に薬を入れるのに、昼休みに姿を見たらそれを微塵も感じさせない笑顔を見せていて。
『(…なんて、不器用なんだろう)』
自分が弱っているところを他人に見せられない。
見せてはいけないと強く思っているから、毎日あんな真似をしているのか。
玲央奈に感じた庇護欲とは全く別の感情。
あの子の本当の笑顔を守りたい…そしてあわよくば、それを僕にだけ向けて欲しいとさえ思った。