先輩 (短編)
2つ。
たった2つ違う。
そのたった2つの壁に私はいつも苦しんでいたんだよ。
あなたの授業中の珍しく真面目な顔とか、眠たくてまぶたが下がった顔とか、つまらなそうに窓を横に向ける顔だって知らない。
あなたの友好関係だって曖昧にしかわからない。
『ねぇ、先輩』
小さな私の声をいつも先輩はちゃんと拾ってくれたね。
『なぁに、後輩』
なんて格好つけちゃって。
私たちが共有した時間は1年も満たない。
「なぁ、後輩」
なぁに、先輩。
なんでそんな顔してるの?
先輩今日、卒業式だよ。
なんでそんな顔してるの?
…何でそんなに。
泣きそうな顔してるの?
まだやり残したことでもあった?
「先輩」
私が声をかけただけなのに、なんでそんなにびっくりしてるのさ。
幽霊でも見た顔しちゃって。
なに?失礼だね、ほんと。
「後輩」
震えてるよ、声。
なんで、なんで。
私の手、握ってるの?
先輩は、佳奈さんのとこいかないと。
私は先輩の彼女じゃないんだよ。
だって私の片思いのはずなんだもん。
「…なぁ、全部都合よく思っていい?」
「どういうこと?」
私のきょとんってした顔に先輩は、顔を歪ませるように優しく笑った。
「俺はね、後輩が思ってるより後輩が大切なの」
わぁ、それは嬉しい。
「俺はね、ずっと後輩は笑ってるんだと思ってたよ」
うん、笑ってるよ。
「俺はね、…俺はさ、後輩」
うん、なぁに、先輩。
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