鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
俺の目測に狂いはない

「あっ……」

蛇に睨まれた蛙、鷹の前の雀、猫の前の鼠。

人間生きていれば、人生に一度くらいは恐ろしいと思うような相手を目の前に竦むことがあるだろう。
ただそれは、性格上にそりの合わない相手を目の前にした時に思うこと。

今私に起きているこれは、それとはかなり種類の違う緊張感だ。

ごくりと生唾を飲み込み、全身の血管が一瞬で沸騰したかと思うくらい全身が熱い。
私は今、会社の小会議室で自社製品の感性を得るために下着を試着し、着心地を確かめていた。

成海(なるみ) 栞那(かんな) 二十八歳。
四か月ほど前に中途入社し、先月新規に立ち上げた部署・Webシステム部の責任者に任命された。

工業高校を卒業後、工科専門大学でシステム工学を専門に学んだシステム()エンジニア()で、サーバーとネットワークに関しての知識も豊富。
大学卒業後に大手広告代理店に就職し、沢山いるSEの中で切磋琢磨して技術を磨いていた。

けれど、三十歳に近づくにつれ、会社での風当たりが悪くなり独立をしようかと悩んでいた時に、今の会社からスカウトを受けた。

人気急上昇中のランジェリーブランド『Bellissimo(ベリッシモ)
イタリア語で美しいという意味のこのブランドは、機能性や価格はもちろんのこと、ハイクオリティでデザインが斬新なのに美しいと評判のブランドだ。

その会社の小会議室のドアの前に、高級ブランドのスリーピースを身に纏った社長が、軽く腕組した手を口元にあて、こちらを見据えて立っている。

「アウトラインは悪くない」

ぼそっと呟かれた言葉に背筋がゾクッと震えた。

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