鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

三井の運転で伊織と向かった先は、都内有数の結婚式場。
今日は招待状が無ければ入れないVIP仕様になっているようで、かなり厳戒態勢が敷かれている。

「何かのパーティー?」
Fée(フェ)(訳:フランス語で妖精・完璧な女性)というブランドを知ってるか?」
「もちろん知ってるわよ。ハイブランドで有名だし、上品で洗練されたデザインのファッションブランドでしょ?」
「あぁ。そのFéeのシークレットショーだよ」
「シークレットショー?」
「ご贔屓のセレブとか著名人とかを呼んで、ホームパーティーみたいな感じで催される新作発表のショーなんだ」
「凄ーいっ」
「年末に栞那が見てたサイトの写真あっただろ」
「……あっ、うん」
「あれもこれと同じで、海外で開かれたショーに招待された時のだよ」
「へぇ~」
「で、栞那が嫉妬してた女性が、FéeのメインデザイナーのLucie(ルシィ)だよ」
「……べ、別に嫉妬なんて」
「してただろ」

にやりと口角を上げ、栞那の耳元に囁く伊織。
周りにいる人々が向ける視線などお構いなし。
栞那は少し長めのトレーンを手繰り持ち上げるように抓み、クラッチバッグで押さえながら歩く。

「足、痛むか?」
「ううん、大丈夫。履き慣れないから躓きそう」
「フッ、俺の腕を掴んでろ」
「ん」

自身の腕に絡ませるように栞那の腕を絡ませた、その時。

「久宝さん、ご無沙汰しております」
「……お久しぶりです、田辺(たなべ)編集長」
「クラシカルな装いが洗練されていて…、どこかのモデルかと見間違えそうだわ」
「ハハハッ、相変わらず、ご冗談がお上手で」
「……そちらの女性は?」

< 103 / 156 >

この作品をシェア

pagetop