鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
田辺の鋭い視線が伊織の隣りにいる栞那に向けられる。
今日のショーに参加すると決めた時点でこうなることを予想していた伊織は、自身の腕に絡めている栞那の手をぎゅっと掴んだ。
「ご紹介が遅れました。私の妻です」
“婚約者” “恋人”と紹介したところで、諦めるような女じゃない。
これまで、恋人がいると何度も伝えているのに一向に態度を変えない田辺に対し、伊織は嫌気が差していた。
「えっ?!」
伊織の言葉に驚愕する田辺。
“妻”と紹介されては、返す言葉を失ったようだ。
しかも、栞那の胸元に刻まれたキスマークを目にして、ギリリと奥歯を噛み締める。
「栞那、彼女はRoxaneの編集長の田辺 十和子さんだ」
「……初めまして、妻の栞那と申します。主人がいつもお世話になっております」
栞那は優雅に腰を折り、丁寧にお辞儀をする。
ドレスを着せられ、パーティー会場に連れて来られた時点で、ある程度のことを予想していた栞那。
昔の女がいるだとか、見合い相手がいるだとか。
もちろん伊織を狙っているであろう女性たちがいると踏んでいて、伊織がここへ連れて来た意味を考えていた。
元々回転の速い栞那。
理系女子というのもあるかもしれない。
常に理論的に先の先を読む冷静さがある。
伊織の発した“妻”というワードに正直驚きもしたが、自分に課せられた立場は瞬時に把握した。
「いつ、ご結婚されたんですか?」
「少し前です」
「失礼ですが、お二人の出会いは?」
“妻”だと紹介したのに、尚も食い下がる十和子。
シャンパングラスを掴む手が僅かに震える。
「彼女とは二十年以上前からの知り合いで、私の初恋の相手なんですよ」
「っっ……」