鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

キッと目を細め、十和子の口元がきつく結ばれる。
栞那に対して嫌悪感を露わにし、伊織への感情も露わになった、その時。

「イオっ」
「ルシィ」

長い髪を揺らしながら長身の女性が伊織たちの元へとやって来た。
その女性は周りの視線を一身に受けながら、伊織と抱擁を交わす。

「ルシィ、紹介するよ。彼女が栞那だよ」
「ワァオ!ズット アイタカッタデス」
「栞那、さっき話したFéeのメインデザイナーのルシィ。日本に七年ほど住んでたから、日本語も話せる」
「初めまして、栞那です」
「イオ ガ イツモハナシテマシタ。ステキナ ジョセイダト」
「っ……」

ホテルへと向かう車中で、ルシィに関しては聞かされていた。
日本の文化に魅了され、留学していた時に知り合ったと。

自分のことを話していたことは聞かされていなかったが、状況から瞬時に把握し、相槌を打つ。

ルシィは明るく気さくで、伊織とはかなり親しそうだ。
デザイナー仲間というより、姉と弟のような雰囲気が伝わって来る。
ルシィが伊織を凄く可愛がっているのが分かる。
伊織が選んだ女性だということもあり、栞那に対してもとても優しく接してくれる。

そんなルシィに伊織が耳打ちをした。
すぐ隣にいるのに、栞那には全く通じない。
二人の会話はフランス語だ。

そんなやり取りを十和子は完全に蚊帳の外で、見守るしか出来ずにいる。

会話を終えたルシィは、満面の笑みで栞那の手をぎゅっと掴んだ。

「栞那、ルシィが俺らの結婚式の衣装をデザインしてくれるって」
「えっ?」
「ワタシニ マカセテ~」

世界的にも有名なブランドのトップデザイナーであるルシィ。
そんな彼女がデザインしたウェディング衣装だなんて。

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