鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される


パーティー形式の新作ショーは終わり、歓談の時間になった。
伊織は知人に挨拶回りをしながら、栞那を紹介する。

栞那の気持ちが後戻りできないように。
十和子のように、しつこい相手に印籠を渡す意味でも。

「いっくん、……妻だなんて言ってよかったの?」
「問題ない。ってか、プロポーズ承諾したよな?今さらアレはなしとか言うなよ?」
「っ……言わないよ。けど、こんな風に公にして良かったのかな?とか心配になるじゃない」
「それは大丈夫。今日はシークレットショーだし、オフレコのようなものだから」
「それならいいんだけど」
「そう遠くないうちに結婚するんだから、別にいいだろ」

悪びれる様子もなく、しれっと言い切る伊織。
もう騙さないと約束した傍からこれだ。

「社長」
「もうそんな時間か?」
「はい」

伊織と栞那の傍にいた秘書の三井が声をかけて来た。

「栞那、これから十分ほどの取材を受けることになってて」
「取材?」
「あぁ。少しの間、三井と一緒にいてくれ」
「ん、分かった」
「三井、栞那のこと頼むな」
「はい、承知しました」

伊織は指定された個室へと向かって行った。

「何か、お取りしましょうか?」
「いえ、大丈夫です」

三井が気を利かせて、食事ではなくソフトドリンクを栞那に差し出す。

「彼はこういう席もよくあるんですか?」
「……はい、ございます。あまりお好きではないようですが、付き合いも必要不可欠ですので」
「そうですよね」
「成海さんは、社長のどこに惹かれたんですか?」
「直球ですね」
「これは、失礼致しました」
「別にいいんですけど」

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