鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

栞那はこれまでの伊織を思い返す。
長い年月を経て、こうしてまた逢えるようになったことに感慨深くなる。
彼が、手繰り寄せてくれたものだと思うから。

「お互いに辛い時に出会ったと思うんです。でも、その一瞬一瞬が本当にかけがえのないほど大切で。純粋だった二十年前と今ではだいぶ違うんですけど、それでもやっぱり変わらないものもあって。切なさとか悔しさを包み込む優しさだとか、不安や悲しみを打ち消せるほどの安心感だとか。言葉には言い表せないほど、惹かれる部分は多いです」

栞那は柔和な表情で三井を見上げた。

「三井さんはご結婚されてると彼から聞いてるんですが、奥様はどんな方なんですか?」
「妻ですか?……一言で言ったら、少女のような人です」
「可愛いってことですか?」
「あーん~、それもあるんですが、心が綺麗というか。愚痴を溢すこともないですし、どんな時でも楽しいことを考えてる女性です」
「素敵ですね」
「まぁ、時に衝撃を受けることも多々ありますが、それが人生に於いていいスパイスだったりもするので、楽しい人生を過ごせているのは彼女のお陰だと思います」
「今度、三井さんのご家族とホームパーティーでもしたいですね」
「いいですね、ホームパーティー。妻が好きなワードですよ」
「じゃあ、是非ぜひ!」

数分他愛ない会話をしながら、飲み物を口にする。

「そろそろ、社長を迎えに行きましょうか」
「……はい」

会場を後にして、三井の後を追う。
取材用の個室は同じフロアの奥にあり、入口にスタッフが立っている。
三井が挨拶を済ませると、入室が許可された。

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