鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

個室にインタビュースペースが設けられ、インタビュアーと対面する形で椅子に座っている伊織。
長い脚を優美に組み、フランス語で話すインタビュアーに微笑みかけている。

「Féeが契約しているフランスのメディアです。インタビューしているのは、フランスで人気の女子アナで、今日のショーにも同行しているそうです」
「そうなんですね」

流暢に話す伊織が別世界の人に思えるほど、輝いて見える。
フランスでも知名度がある伊織は、ルシィの紹介もあって取材を受けているらしい。

その場で会話の内容を通訳してくれる三井さんに相槌を打っていた、その時。
伊織の視線が栞那に向けられた。
すると、伊織の視線に気づいたインタビュアーのEva(エヴァ)が栞那に視線を寄こした。

「社長に、あの女性は誰ですか?と尋ねてます」
「え」
「……フフッ、愛する妻ですって、答えましたよ」
「っっっ」

撮影はなしということになっているからなのか、カメラが向けられることはなさそうだ。
エヴァが栞那に笑みを向け、会釈した。

逐一通訳される内容に一喜一憂しながら、栞那の心拍数は高まる一方。
取材に対して、“妻”だなんて公言してしまってだいじょうぶなのかしら?と不安になりながらも、やはり自分の存在を肯定して貰えた安心感に嬉しくならないはずがない。

「“デザイナーを志したきっかけは?”……という質問です」

三井さんの言葉に、栞那の視線は伊織を捉えた。

「Je veux que ma femme bien-aimée le porte.」

伊織は栞那に熱い視線を送る。

「愛する女性(ひと)に身に着けて欲しくて……だそうです。愛されてますね」

伊織の視線と三井の言葉に栞那の頬が一瞬で赤く染まった。

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