鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
「結婚しても仕事続けていいし、自宅に専用の部屋が欲しいなら作ってやるから遠慮なく言えよ」
「えっ、いいよ、別にそんな気を遣わなくても」
「別に気を遣うとかじゃなくて、当たり前のことだろ。子供に子供部屋が必要なように、栞那には栞那が栞那らしくいられる空間が必要だろ」
「っ……」
「俺が仕事に集中してる時もあるし、栞那だって没頭したい時があるだろ」
「……ん」
「干渉しないっていうルールじゃなくて、お互いに尊重し合うってのはどうだ?」
「尊重し合う?」
「あぁ。勿論、放置していいってわけじゃないから、寂しくならないように、甘えたくなったらお互いに合図を出すってのはどう?」
「合図?……例えば?」
「うーん、そうだな……。甘い珈琲が苦手な俺に激甘な珈琲を淹れるとか、それとなく分かりやすい合図送ってくれればいいし。俺は“かんちゃん”って呼ぶのはどう?いつもは“栞那”って呼ぶから、必然的に分かるだろ」
「っっっ~~っ、それ、めちゃくちゃハズいねっ」
「だからいいんじゃん。幾ら時間が経っても初々しい関係性の方が新鮮味があって上手くいくだろ」
「……うん、そうかもね」
「話し合わないと分かり合えないこともあるだろうし、言葉にできない時もあるだろ」
「じゃあ、構って欲しい時は茄子料理出すようにする」
「えっ……」
「仕事人間のいっくんにはそれくらいしないと構って貰えそうにないもんね」
「ハハッ、一本取られたな」
俺らには共通の話題も時間も少ない。
これからどんどん増やせばいいだけのことだが、焦る必要もないだろう。