鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

「社長、既に車の用意が出来ております」
「ん」
「本日はこの後、篠田紡績の専務との会食後、御影グループの広報誌の対談インタビューが十五時より入っておりまして、十七時に販売企画部の会議が入っております」
「ん。……彼女の方はどんな具合だ?」
「年度末ですので、激務のようです。新年度用に各部署で導入するシステム変更のほかにセール対応などに追われ、連日退社は二十三時頃のようです」
「……そうか」

伊織も多忙だが、栞那も仕事に追われ、ここ半月ばかりは別々の生活をしている。

伊織は出張も多く、常に栞那の傍にいてあげれるわけじゃない。
家の鍵は渡してあるものの、住み慣れた自分の家の方がゆっくり休めると思い、『毎日通わなくてもいいから』と伝えてある。

期間限定での生活だと割り切ればいいのだが、お互いに仕事を優先している以上、この生活は永遠に続きそうな気がする。
それでも、同じ会社にいるというだけで、心持は以前に比べたら別格の安心感があるのも違いないが。

「明後日から約二週間ほどの出張になりますが、大丈夫ですか?」
「……大丈夫、とは?」

会食するホテルへ向かう車内。
三井の運転する車で向かっている道中、三井は伊織に声をかけた。

「充電なされなくて。……今でさえ、充電切れ状態で集中力に欠ける状態で、二週間会えなくなるのですよ?」
「……」
「一時間でも会って、ちゃんと顔見て会話された方が宜しいかと思いますが」
「……言われなくても分かってる」
「こういう言い方したらご気分を害されるかと思いますが、婚約してたとしても安心はなさりませんように」
「は?」
「結婚しても、愛が冷めるのは一瞬です。そうならないようにお互いがともした火を絶やさぬように、ともし続ける努力をするんですよ。……それが恋愛です」
「フッ、知ったような口を」
「社長には、こうして口に出して言わないと、いつになっても行動に移そうとしないから心配なんですよ」

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