鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される


「すみません、部長。お先に上がります」
「お疲れさま~、気をつけてね~」

二十時半を回り、次々と退社してゆく部下。
“今日は早めに上がろう!”と事前に通告してあるため、それぞれにキリのいい所で締め作業をしている。
残るは国分さんと私のみ。

「よし、終わった!」

国分さんが両腕を突き上げ伸びをした。

「部長、この後、デートですか?」
「……ん」
「いいですね~」
「国分さんに報告だけしとくね」
「はい?」
社長()と、結婚することになったから」
「はっ?……え、えぇっ?!」
「実はね、幼馴染みたいなもので、二十年前に知り合ってたの。久しぶりすぎて本人だと気付かなくて。年末にそれが分かって、その後に色々あって。で、プロポーズされたってわけ」
「……なんか、凄い急展開すぎて、頭がついていかないんですけど」
「……うん、私も正直言うと、まだ夢なのか現実なのか曖昧で。でも、彼の傍にいると、心が満たされるっていうか」
「うっわぁ~ッ!のろけだぁ~」
「黙っててごめんね。国分さんには一番最初に話しておきたくて」
「嬉しいです、そんな風に言って貰えて。……あの社長がねぇ~」

少し前に退社した近藤さんが淹れてくれた珈琲を口にしながら苦笑する栞那。

「いつご結婚されるんですか?」
「それはまだ決まってないんだけど、できるだけ早くに籍だけでも入れようかと思ってる」
「そうなんですねぇ。そっかぁ~、結婚かぁ」
「国分さんはどうなの?例の初恋の彼と、上手くいってるの?」
「一昨日会いましたけど、上手くいってるのかなぁ……いつもと変わらないですけど」

国分さんは珈琲を飲み干し、机上を片付け始めた。

< 120 / 156 >

この作品をシェア

pagetop