鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
「ホント言うと、二年前に一度プロポーズされてるんですよね、彼に」
「え?」
「その時は大学卒業して間もなかったし、この会社に就職して仕事も楽しくなり始めてて。家庭に入るっていうビジョンが全く湧かなくて」
「……ん」
「今考えると、結婚したからって辞める必要ないのかな?とか思えて。結婚しとけばよかったのかなぁとか考えることもあります」
「……それ、ちゃんと断ったの?」
「うーん、どうだろう。あの時は“付き合う”ことも“結婚”することも曖昧すぎて、逃げてたんですよね、考えることすら」
「……そっか」
「できない、したくないみたいないことは口にしなかったけど、“好き”ってことも口にできなくて。結局、体だけの関係が今も続いてます」
「……複雑だね」
「まだ二十五ですし、もう暫くゆっくり考えてもいいかなって思うんですよね」
「そうだね」
「部長は、“結婚したい”って思えた理由は何なんですか?」
「理由?……一言で言ったら、家族になりたかった、かな」
「家族?」
「うん。あー見えて、彼、家族いないの。両親も祖父母も、兄弟ですらね。だから、何かが出来るわけでもないんだけど、傍で寄り添うくらいは出来るかな?と思って」
「いいですね、家族。一番傍にいれて安心できる場所ですよね」
「……うん」
「今度、奢らせて下さい。ご結婚のお祝いに」
「……ありがと」
国分はコートを羽織り、バッグにスマホを入れる。
「では、上がります。部長も上がって下さいね。きっと待ち侘びてると思いますから」
「フフッ、そうだね。お疲れさま」
「お疲れさまでした」