鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される


「味噌汁とすまし汁ならどっちがいいだろう……?」

仕事を終え帰宅した伊織は、栞那のために海鮮ちらし寿司を作った。
浅漬けと和え物も手早く仕上げ、後は汁物を用意するだけ。
出汁は取り終わっていて、鍋に視線を落とし眉根を寄せる。

「やっぱり、味噌かな。白味噌好きだって言ってたし」

ブツブツと独り言を口にしながら、冷蔵庫からかぶと里芋、それと油揚げを取り出し、味噌汁を作り始めた。

半月ぶりの彼女との食事。
一本電話でもかければ、たぶん食事くらいはいつだって出来たはず。

彼女からも連絡が一切来なかった理由は何だろう?
俺と同じ理由だろうか?

元々恋愛に前向きでない彼女だから、連絡が来ないならそれでもまぁいいか的な感じだった。
けど、やっぱりショックでもある。
ただ単に仕事が忙しかったら、余裕がなかったんだと、そう自分自身に思い込ませていた二週間。

二十年近く会わなかった日々をどう過ごしていたのか、もう思い出せない。
すぐ傍にいるという安心感で、感情を押し殺すというスキルが完全解除されてしまったようだ。



「こんばんは、お邪魔します」
「遅くまでお疲れ様。……おかえり」
「っ……、ただいま」

スーツ姿の栞那は脱いだヒールを端によけ、少し疲れた表情で微笑んだ。

「夕飯作ってある。食べるだろ?」
「うん、もちろん!手、洗って来る」
「シャワー浴びてくれば?」
「え?」
「泊ってくんじゃないの?」
「あ、……そうだね、じゃあ、泊ってく」

彼女の荷物はそのままにしてある。
ハウスキーピングは隔日で入っていて、栞那の荷物には触れないようにして貰ってある。

< 122 / 156 >

この作品をシェア

pagetop