鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

「っんぎゃぁ」
「……プッ、凄い悲鳴」

突然耳元にかけられた言葉に驚き、変な声が出てしまった。
僅かに温かい吐息が耳元を襲う。

「なな、なっ、何でいるんですかっ?!」

慌てて耳を手で塞ぎ、床を目一杯蹴って、キャスター付きの椅子で距離を取る。

「自分の会社なんだから、どこにいようが俺の勝手だろ」
「んっ……、何か御用ですか?」

声で即座に誰だか分かった。
少し低めで落ち着きのある声音で、それでいて大人の男の色香を纏う美声の持ち主、久宝社長だ。

「言っとくが、前回のようにゾンビ(処理完了後に、プロセステーブル上に残ったままのプロセスがある状態)があったら、ただじゃおかないぞ」
「うっ……」

少し前に組み込んだシステムで、結果的にゾンビプロセスを出してしまった過去がある。
当然その時は鬼雷が落ちはしたが、部署が創設されたばかりで、メンバー同士のコミュニケーション不足だということもあり、社長も大目にみてくれた。

だが、今回は違う。
もう甘えは許されない。
例え人手不足だとしても、そんな甘い考えが通じる人ではない。

「おい、アラート飛んで来てるぞ。これ、落ちてんじゃないのか?」
「え?……あぁっ!」

データの重たい処理途中でデバッグ処理をしていたため落ちたようだ(サーバやプロセスが停止し、システムの稼働に異常があること)。
警告を示すアラートが表示され、作業途中のデバックが完全に止まっている。

「不安だな」
「っ……」

ボソッと呟かれた言葉に心臓がドンッと強打された気がした。

「問題箇所を確認して落とし上げ(サーバやプロセスを再起動すること)します」
「食事でもと思ったが、またの機会にした方がよさそうだな」
「へ?」

“せいぜい、頑張れよ”と言わんばかりに、ポンと一撫でされた。

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