鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
「社長?」
「あっ……」
その場を収拾するように三井が声をかけた。
ドアが開き、歩き出したモデルのありさの膝がカクっとし、バランスを崩した彼女を無意識に抱き留めたまではよかったのだが。
開いたドアの先にいたのは、紛れもなく栞那だった。
ありさを先に降ろすように促し、三井と共にエレベーターを降りる。
すると、俺に会釈した栞那は、無言のままエレベーターに乗り込んだ。
分かっている。
ここは職場だということも。
三井と山下は俺らの仲を知っているが、モデルのありさと近くにいる社員の目があることも。
だけど、栞那の表情が明らかに誤解しているようで。
「ありがとうございました」
「……いえ」
御礼を口にするありさからエレベーターへと視線を向けると、俺と視線も合わせずにボタンを連打する彼女がいた。
「社長、お時間が…」
「分かってる」
「相川さん、すみません。この場にて……」
「あ、はい」
三井に促され会釈し、足早にその場を後にする。
モヤモヤとした気持ちを抱えながら……。
*
「社長」
「上手く話しが纏まってよかったな」
「いえ、会食の話ではなく、成海さんのことです」
「……」
会食を終え、車に乗り込んだ二人。
三井は二時間ほど前の出来事を心配して声をかけて来た。
「帰ったら、連絡する」
「社内での噂話の件もありますし、きちんとご説明なさった方が宜しいですよ」
「噂話?……あ、婚約の話か」
「はい。……ですが、その噂のお二人というのが、社長と成海さんではなく、先程の相川さんだという話です」
「は?……何故?」
「分かりません。“婚約”に関しては、少し前のシークレットショーでのことが他社より漏れ、それを聞きつけた営業部あたりの社員が拡散したのだと思いますが」
「ならば、何故、そこに相川が出て来るんだ」
「来月からの広告塔のモデルとして契約したのが大きいかと思います。人の口には戸が立てられないですから」