鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
そうか。
それで、さっきの栞那はあんな表情をしていたのか。
俺を虫けらかと思うくらい冷めた目をしていた。
自分を捨てた男へ向けられたような、侮蔑の眼差し。
「三井」
「はい」
「自宅に着いたら少し待っててくれ」
「……はい」
「帰るついでに俺を彼女の家の前に降ろして欲しいんだが」
「はい、承知しました」
会食で酒を口にしてしまったから、車の運転はできない。
帰りはタクシーでも拾えばいいし、とにかく今はすぐにでも誤解を解きたい。
自宅に到着し、ビジネスバッグを置いて、彼女へのお土産を手にして……。
再び車に乗り込んだ伊織は、手元の荷物に視線を落とした。
「昨日、会いに行かれなかったんですか?」
「あぁ。……部下と飲みに行くと連絡が入ってたから」
「そうなんですね」
時差ボケと疲れで、正直ゆっくり休みたかったというのもある。
彼女が何時に帰って来るのか分からない中、ずっと待っているのもどうかと思って。
十分ほどして栞那の自宅があるマンションの前に到着した。
「明日のお迎えがこちらになるようでしたら、少し早めに迎えに参りますので、ご連絡下さい」
「……すまない」
久しぶりに彼女の自宅があるマンション内へと足を踏み入れる。
出張に出かける前も仕事に追われ、約一カ月ぶりだろうか。
エントランスに生けられている花が桜に替わっていて、月日の流れを感じる。
彼女の部屋番号を入力し、呼び出す。
「俺だ」
「はい、今開けるね」
エレベーターへと続くエントランスの自動ドアが解除され、彼女の部屋へと向かった。