鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
久しぶりに見た栞那は少し髪を切ったようで、無かった前髪がつくられていた。
「髪、切ったんだな」
「あ、さすがっ!よく分かったね」
玄関で恥ずかしそうに前髪を触る彼女の手をそっと掴んだ。
「ただいま」
「おかえりなさい」
約二週間ぶりに視線が絡まる。
黒目がちな大きな瞳に自分が映る。
「これ、お土産」
「わぁ、ありがと♪」
嬉しそうに受け取る彼女を視界に捉え、ちゃんと話さなければと自分自身に言い聞かせる。
「会食だって言ってたから、食事の用意してないけど、何か飲む?」
「……じゃあ、水を貰える?」
「お水ね」
いつもに増して明るく振る舞う彼女が、気丈にしているのだと一瞬で分かった。
キッチンカウンター越しの彼女を捉え、胸が締め付けられる。
水が注がれたグラスがセンターテーブルに置かれ、ソファに座る俺の隣りに栞那は腰を下ろした。
「テレビでも観る?あ、お土産、見てもいい?……そう言えばね、六月にうちの部署のSEの杉山くんが結婚することになってね……」
無意識なのか。
無理やりなのか。
栞那は沈黙を避けるように矢継ぎ早に話し始めた。
「栞那」
「……ん?」
「今日で、……終わりにしようか」
「………え」
俺の言葉に硬直する栞那。
袋の中からエジプト綿のケープを取り出し、硬直した。
「もう限界なんだ」
「……限界って?」
「お互いに仕事量も多くて、お互いの家を行き来するのも大変だし」
「……」
「もっと仕事に集中したくて…」
「……そうだよね。………ん、分かった」
「ごめんな、勝手に決めて」
「……ううん、平気だよ。いっくんの重責は分かってるから」