鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される


無事に区役所に婚姻届を提出して、栞那を俺の自宅に漸く捕獲できた。
もう二度と手放せない。

「お義母さん、何だって?」
「おめでとう、だって」

婚姻届を提出したことを母親に報告した栞那。
父親からはメールで報告してくれればいいと言われているようで、区役所から俺の自宅に向かうタクシー内でメールをしたようだ。

「お風呂は?」
「いっくん待ってる間に済ませてある」
「じゃあ、シャワー浴びて来ていい?」
「うん、いいよ~」

仕事着のまま彼女の自宅へと急いだから、漸く一息つけそうだ。



シャワーを浴び終え、書斎に籠る。

「俺としたことが……。いや、俺らしいか」

書斎の机の引き出しを開けて、溜息と共に無意識に声が漏れ出ていた。

「よし、グダグダ言っても仕方ないし、栞那なら笑って流してくれるか」

手のひらで頬をパシッと叩き、気合を入れる。

「栞那」

リビングでノートパソコンに向かっている彼女の傍に。
隙あらば、いつでもパソコンに向かっている彼女を見据え、静かに腰を下ろした。

「ちょっと待ってね」

カタカタとリビングに鳴り響くタイピング音。
さすがと言うべきか、恐ろしいほどに早くて、しかもリズミカルな気もする。
あぁ、そうだよな。
好きなことをしてるんだから、楽しいに決まってる。

彼女の楽しみを中断させるのは違うか。

「急ぎじゃないから、ゆっくりでいいよ」
「……ごめんね」

モニターを見つめたまま、声だけが返って来た。

そして、数分後。
漸く手を止めた彼女が、パタンとパソコンを閉じて、俺の方に向き直った。

「ん?」

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