鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

パソコンから視線を上げれない。

規律よく打ち込んでる風に見えるだろうけど、実際は手が震えるほど緊張していて。
その緊張をどうにかこうにか抑えようと必死だ。

「急ぎじゃないから、ゆっくりでいいよ」
「……ごめんね」

優しい彼はソファに腰を下ろして、じっと待っていてくれる。
ダメだ。
ちゃんと向き合わないと。

逃げる癖が付いてる私は、今までだったら何気なく話を逸らしてただろう。
そんな風にして、恋愛の駆け引きみたいなものをあからさまに避けていた。

自分に自信がないから。
システムのことならいつだって攻めの姿勢なのに。
自分が『女』だってことを真正面から受け入れる自信がなかった。

だけど、もう違うんだ。
彼にとって、私は妻であり、唯一の女性になれたんだ。

フゥ~と呼吸を整え、パソコンを閉じた。

「ん?」

視線の先に映った彼は、予想していた表情とはかけ離れていて。
何故か、照れたような顔をしながら、咳払いをした。

「えっと、……順番を無視してごめん」
「……ん?」
「もう籍入れた後だけど、これ、……受け取って」
「………あ」

目の前に現れたのは、高級ブランドの宝石箱。
真ん中でパカッと左右に開かれ、濃紺色のベルベットの中央に煌びやかに輝く指輪が鎮座している。

普通ならプロポーズの時に渡すようなモノ。
正式に付き合い始めて数日でプロポーズされ、その後、数日でそのプロポーズを承諾した。

あれから三か月。
指輪を貰う前に、入籍してしまった。
だからか。
彼が恥ずかしそうにしてるのは。

「つけてくれる?」

断わる理由がない。
既に彼の妻になってるのだから。

嬉しそうに左手薬指に嵌める彼が、物凄く愛おしい。

「ありがとう。……大切にするね」

< 146 / 156 >

この作品をシェア

pagetop