鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
「いや、言わないよ」
「ホントか?」
「……ん」
一先ず、離婚は回避できたようだ。
成田離婚ならぬ、初夜離婚は避けたい。
いや、離婚だなんて言葉、俺の辞書にはないけれど。
「そうだよね。……うん、ごめんね、不安にさせて」
「……いや、説明しなかった俺も悪いし」
「心構えが中途半端というか、簡単に考えてたというか」
「ん」
「でも、もう大丈夫。いっくんと一緒なら、何でも乗り越えられると思うし」
パッと顔を持ち上げた彼女は、にこっと微笑んだ。
「当たり前だろ。これからは何でも二人でするんだから」
「うん」
両腕でふわりと彼女を包み込む。
「いっくん、いい匂いがする」
「……そうか?」
「うん。この匂い、好き」
「フッ」
ぎゅっと抱きついて来る彼女を抱き締め返す。
俺は栞那のシャンプーの匂いの方が好きだよ。
ちょっぴりエキゾチックな感じに微かにフルーティーな香りがするのが。
「運んでもいい?」
「………ん」
恥ずかしさを隠すように俺の胸に顔を埋めた栞那。
「掴まってて」
ソファに座っている彼女を抱き上げる。
服越しに伝わって来る鼓動が物凄く早くて。
つれらるように俺まで鼓動が早まってしまう。
寝室のベッドの上にそっと下ろす。
初めてじゃないのに、カチコチに体を強張らせて。
ぎゅっと瞑る瞼にキスを。
乱れた前髪をそっと流して。
胸元できつく握りしめられている手を優しく解き、指を絡めてベッドに張り付けた。
「栞那」