鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される


「で?……何が原因だったんだ?」

一通りの修正作業を終え、社長室のドアをくぐった栞那。
ブリザードのような氷視を向けて来る社長に、ごくりと生唾を飲み込んだ。

「メモリフォレンジック(揮発性情報であるメモリ上のデータを解析する技術のこと:かなり高度な技術)したところ、不正アクセスによるマルウェア(悪意のあるソフトウェア/ウイルスも含まれる)を発見したので、即座に処理しました」
「対策はしたのか?」
「もちろんです。侵入経路を特定したので、類似経路は全て対処済みです」
「他に報告は?」

そもそも、不正アクセスを許してしまう時点で問題ありなのだが、栞那が配属されてまだ間もない。
自ら構築していても、完璧でないのだから、申し訳も立たない。

「明日までの……納期の案件が、……間に合わないものもあるかと」

口にはしたくなかった。
何が何でも納期に間に合わせたい栞那だが、さすがに現在抱えている案件を精査しても、消化しきれるとは言い難い。
それでなくてもSEの二人は徹夜続きで、他のスタッフも疲労困憊状態。
集中して仕事をしていても、うっかりミスから重大な過失を生んでしまいそうだ。

けれど、クオリティと納期は妥協しない社長。

「現在のスタッフの能力と抱えている案件の比重がどう見繕っても合いません。人員を増やして頂くか、もう少し納期をみて頂くか、外注に出すか……。私の力不足で申し訳ありませんが、どれか一つで構いませんので」
「増員か……」

口元に手を当てた伊織は、俯く栞那を見据え考え込む。

「いいだろう。その代わり、私の提案ももちろん聞き入れて貰えるんだろうな?」
「っ……」
「考える時間は無いぞ?また(・・)トラブルが起きてからでは遅いからな」
「っっっ……分かりましたっ」
「交渉成立だな」

ぎゅっと手を握りしめる栞那を見据え、伊織は満足げな表情を浮かべた。

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